小雨のおかげでほんの少し暑さが
和らぎましたね。
短かった梅雨の名残にほっと一息
つけるようなじっとりとした涼しさが、
肌に、心に、やさしく染み込んできました。
先日は雨の中、仕事を終えた夜に
ふらっと本屋に入ると江戸川乱歩の
『芋虫』が目に留まりました。
言わずと知れた日本を代表する
ミステリー作家であり、名探偵コナンの
苗字のモデルにもなった方です。
無性に読み返したい衝動に駆られ、
文庫本を購入してカフェに向かうと
濡れたアスファルトにしっとり響く
帰路に着くだろう疲れた人々の足音。
ページを捲るたびに街の喧騒が遠のき、
世界が静まり返ると、乱歩の物語に潜む
狂気と肉欲が胸の奥から這い上がってきました。
戦争で手足を欠損して芋虫状態になった
弱き夫を献身的だった妻がねじ伏せ、
支配することでしか満たされない哀しい本能。
その狂気の描写は若い頃には全く理解
できなかったのに、歳を重ねた今見返すと
理性の皮を脱いですっかり酔いしれている
自分もいて怖さと愛おしさが芽生えました。
弱い立場の人を攻撃して満たそうとする
心の弱さは誰しもが持ち合わせていて、
芋虫側にも攻撃側にも変わる事ができます。
私は芋虫側として受けた過去の痛みは許し、
痛みの数だけ弱い立場の人に共感して
守ることを今世の使命に感じながら
そっと本を閉じて帰路につきました。

(妻に散々虐◯された芋虫夫が“許す”と書き残して
井戸に飛び込み自◯する最期のシーン)
季節の変わり目にふと立ち止まると
過去のどこかで感じた熱や匂いが
今この瞬間と重なって胸の奥に甘く切ない
疼きを残していきます。
忘れたはずの風景も誰かの手の温もりも
四季とともにまた身体に甦ってきます。
私が“神崎りおな”で居たい時間は
あとどれくらいなんだろう。
本当はもうとっくに過ぎているのですが
いっしょに思い出を重ねながら
理性と本能の間にある「豊かな今」を
濃密に味わっていけたら・・
そんなふうに勝手に妄想してます。
同じ時代に同じ空の下で、
あなたとこうして心を交わせることに
どうしようもなく深い悦びと感謝をこめて。
神崎りおな